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2011.05.13UPDATE

災害対策、LTE、おサイフケータイ、スマートフォン――辻村氏が語るドコモの未来像

スマートフォンの普及やモバイルのブロードバンド化が進む中、ドコモの携帯事業は今後、どのような道を歩んでいくのだろうか。同社代表取締役副社長の辻村清行氏が、「ケータイの今とこれから」というテーマで語った。

スマートフォン&モバイルEXPOの特別講演「国内キャリア キーマンが語る、最新スマートフォン戦略」で5月11日、NTTドコモ 代表取締役副社長の辻村清行氏が「ケータイの今とこれから」というテーマで、同社の携帯事業の現状と発展のあり方を語った。

災害に強いネットワークを作る

NTTドコモ 代表取締役副社長 辻村清行氏

ドコモの未来像を語る上で外せない問題が、東日本大震災で発生した地震と津波だ。震災により、東北地方で稼働していた約1万の基地局のうち、伝送路の切断や停電などにより、約4900局が停波した。基地局には予備バッテリーを積んでいるため、停電後すぐにサービスが中断することはないが、「バッテリーの持続時間は平均で3時間ほど。長くて10時間ほど」(辻村氏)だったため、基地局を持続させることは困難だった。

その後、商用電源やドコモの復旧工事により、4月末で中断局は約4900局から約300局に、現在は17局にまで減った。この17局は、主に「道路が陥没して人も車も入れない、またはトンネルが崩落している場所」などにあるので、実質的には復旧作業はほぼ完了したと考えていいだろう。

被災した通信設備の復旧状況(写真=左)。原発周辺の復旧エリア(写真=右)

ドコモが今後実施していく災害対策

辻村氏は福島原発の問題にも言及。福島第一原子力発電所から20〜30キロ圏内については、「屋内待避をしている人もいるため、まず復旧させようと考え、(作業員に)線量計を付けて注意深く作業してもらった」という。さらに、20キロ圏内についても「500〜1000人のエンジニアが復旧活動にあたっている。彼らにも家族と連絡を取るためのコミュニケーションツールが必要」と考え、できるだけカバーするように努めた。同社は20キロ圏内の通信ビルで伝送路の回線切替工事を実施することで復旧させた。

今後も地震や津波は発生することが予想されるので、「災害に強いネットワークをいかに作っていくかも重要なテーマ」と辻村氏は話す。ドコモは、左のスライドにも示した10個の対策を講じていく。より広域をカバーする大ゾーン方式の基地局については、県庁所在地などの人口密集地域で約100カ所を目標とし、NTTビルやドコモビルに大ゾーン用のアンテナを設置していく。このアンテナは、倒壊や停電などにより周辺の基地局が使えなくなったときに、約7キロをカバーできるようにする。基地局の予備バッテリーは、停電が1日続くようなことも考えられるため、約1900局に24時間持続するバッテリーを搭載する。

さらに、トラフィックの負荷が音声と比べて抑えやすいパケット通信を用いて、ケータイに吹き込んだ音声をメールで送受信するサービスも提供する。「パケット通信の場合はサーバにメールを投げて順次さばくという具合に、時間をかけて処理できるので、トラフィックが膨大になった場合は、(送受信に)1時間くらいはかかるかもしれない」とのことだが、安否情報を確認するツールとして役立ちそうだ。このサービスは電話番号だけでやり取りできるので、「メールを使ったことのない人も、通常の電話と同じ感覚で使ってもらえる」と辻村氏は考える。音声メッセージサービスは、2011年度中に提供する見通しだ。

LTEでリッチな動画コンテンツや同時通訳などを提供

「3.11(東日本大震災)」を契機に日本人の暮らしが少なからず変わっていくことが予想されるが、ライフスタイルやワークスタイル、さらにはネットワークやソーシャルメディアの使い方も変わってくる(=変えていく必要がある)と辻村氏はみている。同氏はケータイの主要なテーマとして「ブロードバンド化」「リアルとネットの融合」「マルチデバイス化」があると説明する。

ケータイの特性と主要なテーマ

ブロードバンド化(通信の高速化)は、モバイルよりも固定が先に進んだが、ケータイもPDC(2G)→W- CDMA(3G)→HSDPA(3.5G)→LTE(3.9G)と進化し、「光ファイバーに匹敵するくらいのスピードが手のひらに乗ってきた」と辻村氏も実感している。ドコモのLTEサービス「Xi(クロッシィ)」については、「3年ほどかけて3000億円くらいの投資をして、2012年度末には1万 5000局をLTEに対応させ、全国の主要都市はカバーしていきたい」と意気込む。Xiの対応機種は現在のところデータ端末のみだが、「2011年中旬にはWi-Fiルーターモデル、秋にはタブレット型が出る。年末にはスマートフォンタイプのLTE端末も出せる」見込みだ。

固定とモバイルにおけるブロードバンド化の流れ(写真=左)。「Xi(クロッシィ)」の展望(写真=右)

LTEにより通信速度が向上することは分かりやすいメリットだが、具体的には何が変わるのか。「速度が上がればダウンロードの時間が短くなるが、これは必ずしも本質的なものではない」と辻村氏は話し、具体的には「動画をもっと頻繁に見られるだろう」と考える。現在ドコモが提供している動画番組サービス「BeeTV」は、現在150万ユーザーが登録しているが、こうしたエンタメ系サービスだけでなく、観光、通販、医療、警備などに合った動画コンテンツも登場すると同氏はみている。「例えば、『弘前 桜』というキーワードを入れると、弘前の桜の状況が6〜7分の動画で見られたり、気になっている商品の通販情報を見たりすることも可能になるだろう」

動画を視聴する端末については「フィーチャーフォン(通常のケータイ)の3〜3.5インチでは小さいと思う。これからは4〜4.5インチのスマートフォン、7〜11インチのタブレットが適したものになる」と話す。通信の高速化だけでなく、端末の大画面化により、より手軽に動画サービスを楽しめる環境が構築されていくことが期待される。

このほか、LTEならではのサービスとして「同時通訳」の開発もドコモは進めている。例えば、日本語で話した内容をサーバが英語に翻訳し、相手の端末へ瞬時に英訳を伝送するといった具合だ。これは「夢物語ではなく、開発はかなり進んでいる。β版になるが、2011年度中にサービス提供できる」(辻村氏)見通しだ。

ドコモケータイの通信サービスとコンテンツの進化(写真=左)。スマートフォン向けにも提供している「BeeTV」(写真=右)

エンタメ以外のジャンルでも動画サービスを提供する(写真=左)。Xiのサービスイメージ(写真=右)

増大するデータトラフィックには、Xiエリアの拡大、通信速度制御、データオフロードで対応する

通信の高速化が進むことで、データ通信のトラフィックが増大することが課題に挙げられている。ドコモのデータトラフィックは、2009年から2010年にかけて約1.7倍増加し、2010年から2011年にかけては約2倍になるとみられている。「この流れが加速して5年ほど続くと、トラフィックだけで数十倍のデータが発生する」という。例えるなら、パイプを流れる水の量が数十倍になっても、パイプを簡単には太くできない状況だ。そこでドコモはLTEを他社に先駆けて導入した。「Xiでも数十倍のトラフィックには対応できないが、3倍ほどなら対応できる。(まずは)トラフィックの多いエリアにLTEを導入して、データトラフィックの爆発に対応していきたい」

全ユーザーが平等に通信できるよう、ドコモは通信速度制御も実施している。ドコモの場合「1%の超ヘビーユーザーがネットワークの3分の1を使っている」(辻村氏)ため、3日間で計300万パケットを使ったユーザーに対して、4日目にはトラフィックが混雑している場所では通信速度を落とす措置を実施している。さらに、Wi-Fi機器や小型基地局のフェムトセルを使ってもらうことで、ネットワークの負荷を他へ分散させる「データオフロード」の取り組みも行っている。「ネットワークオペレーターとして、充実したキャパシティを準備しておく必要がある」と辻村氏は力を込める。

日本と世界でおサイフケータイを利用可能にする

リアルとネットワークが融合したサービス例として、辻村氏はマクドナルドの「かざすクーポン」について言及。かざすクーポンは、「トクするアプリ」をダウンロードして、ケータイを店舗のリーダーライターにかざすと、クーポンやプレゼントなどの特典を受けられる。クーポンを電子化することで、紙の印刷や配布などの手間を省けることに加え、おサイフケータイ利用時にユーザーの履歴を取得できるので、性別や年代などにマッチしたクーポンを店舗ごとに提供できるというメリットも生じる。辻村氏は「究極は(ユーザーごとの)ワンツーワンの特典を作ること」と話す。例えば、あるお客さんは週に2回来店しているので、割引額を増やしてもっと来店してもらう、といったことができる。こうしたクーポンの電子化は「流通業界のマーケティングに大きな変革を起こす」と同氏は意気込む。

マクドナルドの「かざすクーポン」について(写真=左)。「東京ガールズコレクション」では、ケータイをかざすとモデルが着ている服が画面に現れ、その場で服を購入できる取り組みも実施した(写真=右)

iコンシェルの地域展開も推進している

iコンシェルの地域展開も、ドコモが推進しているリアルとネットワークを結び付ける施策の1つだ。例えば、街のパン屋が新作のくるみパンを作ったとする。今までは店頭でポップを作ったり、近隣の駅でチラシを配ったりしていたが、iコンシェルなら、サーバのホスティングシステムを利用して、新作の情報を電子クーポンなどにしてユーザーに届けられる。ただし店舗からある程度近くないとユーザーが足を運ばないので、「パン屋からせいぜい5分くらいのところに、GPSを利用して周辺のユーザーだけにクーポンを配る」ことになる。「店舗は約1000円でサーバを借りられるので、ローコストでチラシを作れる」と辻村氏はメリットを説明する。現在は約6000の地域向けコンテンツが提供されている。

日本では、FeliCaを利用したおサイフケータイがキラーサービスに成長し、「さまざまな企業が参加してエコシステムが進んでいるのは日本だけ。これは“ガラパゴス”ではなく、世界でも売れる一歩進んだサービスだ」と辻村氏は胸を張る。海外でもAndroid 2.3がNFCに対応するなど、おサイフケータイ普及への気運が高まっている。

ただ、世界では非接触ICカードの標準規格としてTypeA/B、FeliCaにはTypeCがチップとリーダーライターに採用されているので、 FeliCaチップのみを搭載したケータイからTypeA/B対応のリーダーライターで決済するといったことはできない。そこでドコモは2012年以降、従来のFeliCa RFチップの代わりにNFCチップを搭載してFeliCa SE(Secure Element)とデータをやり取りし、TypeA/BのSEをSIMカードに実装することで、海外でもおサイフケータイを利用可能にすることを目指している。「交通機関のサービスなら、日本でモバイルSuicaを使うのと同じような感覚で海外でも使えるようになるだろう」(辻村氏)

おサイフケータイの主なサービス(写真=左)。NFCを巡る海外メーカーの動向(写真=右)

非接触ICカードのTypeA、B、Cの比較(写真=左)。FeliCa RFチップをNFCチップに置き換え、TypeA、B、Cのリーダーライターを利用可能にする(写真=右)

スマートフォンとフィーチャーフォンは融合する

辻村氏が最後のテーマとして触れたのが、今勢いを増している「スマートフォン」について。ドコモは2010年に約250万台のスマートフォンを販売し、トータルの販売数1800万台の約10数%がスマートフォンを占めた。「2011年度は全機種の3分の1くらい、600万台のスマートフォンを売りたい。(今後発表する)新機種の半分はスマートフォンになるので、販売台数も3分の1より大きくなる可能性がある」と同氏はみる。

スマートフォンの購入者も変わっているという。「2010年4月は女性が20%ほどだったが、2011年3月には30%を超えた。利用者の年代も20〜30代が中心だったが、最近は40〜50代の人も積極的に使っている」(辻村氏)

スマートフォンと言ってもその形状はさまざまだが、ディスプレイサイズで見ると「4インチ前後」「7インチ」「9インチ以上」の3タイプに分けられる。「9インチ以上はノートPCと同じような感覚でカバンに入れて利用できる。4インチ前後のハンドセットタイプはフィーチャーフォンに替わるもの。7インチは微妙なところだが、私は(GALAXY Tabを)よく使っている。4インチだと小さくてバッテリーが弱いが、7インチなら大きなバッテリーを積めるので充電回数を減らせるし、画面も見やすい」と辻村氏はそれぞれのメリットを説明する。

国内の携帯電話販売台数は、2013年にはスマートフォンがフィーチャーフォンを逆転するとの観測もある(写真=左)。現行スマートフォンとタブレットのラインアップ(写真=右)

辻村氏はスマートフォンがもたらす影響について、エジプトでの暴動でFacebookやTwitterが使われたこと、東日本大震災でもTwitterをはじめとするSNSが活躍したことを一例に挙げた。さらに、クラウドのデータセンターにアクセスして営業日報をタブレットから記入したり、管理者がスマートフォンに遠隔ロックをかけてデータを消去したりと、「ビジネスの分野でも7インチ以上のタブレットはもっと積極的に使われていくのでは」とみている。

Twitterでやり取りされた、震災の復興支援(写真=左)。エリアごとのつぶやきを閲覧できる「現地のこえ」(写真=右)

スマートフォンやタブレットからの利用にも適したモバイルグループウェア(写真=左)。スマートフォン向けの遠隔制御サービス(写真=右)

カメラ、ディスプレイ、電子コンパス、メモリ、バッテリー、タッチパネルなど、さまざまなメーカーの部品が使われている

なお、東日本大震災で携帯電話の部品メーカーの工場が被災したことで、スマートフォンの出荷にも大きな影響が出ているという。「OSは米国の企業が中心になって作っているが、日本の部品が海外で使われていることが多く、世界で50%のシェアを持っている会社もある。端末メーカーは苦戦しているが、部品メーカーは世界で活躍しているところが多い」と称えた。

今後、スマートフォンとフィーチャーフォンの関係がどのように変化していくのかは気になるところだが、辻村氏はこの2つを「融合させたい」と話す。スマートフォンにはiモードメールと同等の機能を盛り込んだ「spモードメール」やおサイフケータイなども搭載し、iモード端末との距離が縮みつつある。「今後はiチャネルやiコンシェルもスマートフォンに入れていく。iモードで使われてきたサービスは、できるだけ早くスマートフォンにも入れていきたい」(辻村氏)という。この流れが続けば、スマートフォンの“iモード化”が起きそうだ。

フィーチャーフォンについても、例えば大きなアイコンを利用したUI(ユーザーインタフェース)を採用するなど、スマートフォンのUIに近づけていく見通しだ。「iモードのUIはスマートフォンに近くなり、スマートフォンの機能はiモードと同じものを入れていく。最終的には2つが融合して、違いは画面の大きさくらいになるのでは」と辻村氏は話す。このスマートフォンとフィーチャーフォンの融合は、2〜3年かけて取り組んでいくとのこと。

今後はマルチデバイス化がさらに進み、アドレス帳、静止画、動画、電子書籍などのデータをサーバに保管し、フィーチャーフォンやスマートフォン、カーナビ、PCなど複数のデバイスから、用途に応じてシームレスにデータへアクセスできる環境作りを目指す。端末の進化はもちろん、デバイスの種類にとらわれない、新たなサービスの創出も期待される。

iモード向けサービスをスマートフォンでも利用可能にする(写真=左)。各種サービスのマルチデバイス化を目指す(写真=右)

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