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2010.11.22UPDATE

切込隊長 携帯通信が速くなった時のコミュニケーションを語る(1)

NTTドコモが推進する次世代通信規格「LTE(Long Term Evolution)」は、携帯電話で光回線並みの通信速度を実現する予定だが、LTEにかかわらず、「携帯電話の通信速度が高速になったら…」という未来について、著名ブロガー「切込隊長」としても知られる実業家/投資家の山本一郎氏に話をうかがった。切込隊長の話は今後何回かに渡ってお届けする。

LTEが家族やビジネスのあり方を変える

高速通信がもたらすものの一つに「コミュニケーションする相手が、すぐそこにいるような感じ」があります。今でもツイッターやミクシィ、ブログ、2ちゃんねるも含め、相手の距離を縮める様々なことを「疑似体験」している感じはあります。

かつての手紙・音声通話からネット時代に入り、「すぐそこにいるような感じ」が疑似体験できる場はたくさんありますが、ただ、全ての人と密な関係を作りたいわけではありません。ネット上の人間関係には2種類あると思っています。一つは、距離が遠すぎず、かといってベッタリしすぎない、場合によっては、ネット上での別人格を作ることで成立させるような人間関係。もう一つは、相手のことをより詳しく知りたい、自分のことをより詳しく知らせたい、という深い人間関係です。実は、みんな、相手や局面によってこれらを使い分けていて、楽しくおしゃべりできるのならあまり深い付き合いはしたくない、というコミュニケーションの割合が増えているのですよね。

ネット上での友達付き合いがあっても、厳密には友達関係ではない関係というのは、ツイッターだったりフェイスブックだったりで既に実現されています。人間はコミュニケーションを取るにあたって、第三者にそこまで詳しいことは言いたくないもの。ネットユーザーにしても、だいたい8割はROM(Read Only Member=発言せず、読むだけの人)と言われます。テクノロジーが進歩しても、コミュニケーションの本質はあまり変わらないのではないか。また、日本でも注目され始めたフェイスブックにしても、現状ではそこまで高度な通信サービスは必要ありません。技術的に高度だから凄く素晴らしいというだけではなくて、洗練されたシンプルさや、制限された環境でも、私たちはコミュニケーションを自在にとることができるのです。ちょっとしたプロフィールと、自分の化身となるアバターにチャット、これだけで、浅い人間関係はネット上で構築できてしまうのですね。

一方で「より詳しく知りたい、自分のことをより詳しく知らせたい」という深い人間関係では、密な関係をつくるために、ネットへの関与度を高めようとするでしょう。ここに本来の高速通信の可能性があると考えています。ネット上にカジュアルなコミュニティがたくさんあるものの、家族や仕事で繊細かつ高度なコミュニケーションを取りたい人にはまだモバイルインターネットは技術的に追いつけていません。LTE以降はより大容量の通信網が実現できますから、「相手の反応を知り合いたい」「好きな人とコミュニケーションを取りたい」「24時間何かを撮影したい」といった積極的にコミュニケーションを取りたい人に当然向いているのではないか。たとえば、今はメールを送れば返信を待たなければいけないが、LTEのような次世代通信サービスを活用すれば、リアルタイムに、またシームレスに相手がすぐそこにいるような感じが得られるような表現を伝達できる可能性が広がります。気になる相手がどうなっているか、何をしているのかが、常に分かってくる。そうすれば、家族やビジネスの在り方も変わるかもしれないですね。

山本一郎
1973年東京都生まれ。ネット上では「切込隊長」として知られるブロガーであり、実業家・投資家。著書に『情報革命バブルの崩壊』(文春新書)など。

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